最高裁判所第一小法廷 昭和53年(し)79号 決定 1978年10月31日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、別紙特別抗告申立書のとおりである。
所論のうち、憲法三一条、三三条違反をいう点については、記録によれば、宇都宮簡易裁判所裁判官は、昭和五三年九月八日、申立人の勾留期間を同月九日から一一日まで延長する裁判をしたが、その準抗告裁判所は、同月九日、右裁判を取り消し検察官の勾留期間延長の請求を却下する旨の裁判をし、右裁判書の謄本は同日午後一時五分検察官に送付されたのにもかかわらず、検察官は、申立人を釈放する手続をしないまま、同日午後二時二〇分、宇都宮地方裁判所に対し、起訴状に勾留中と表示して公訴を提起したのち、同日午後九時三五分、同裁判所に対し勾留状発付の職権発動を求め、同裁判所裁判官は、同日、刑訴法六一条の手続をしたうえ、同法六〇条所定の要件の存否を判断して、申立人を勾留する裁判をし、右裁判は同日午後一一時五二分執行されたことが認められ、右事実によれば、検察官が前記準抗告審の裁判の告知を受けたのち直ちに申立人を釈放する手続をとることなくその身柄を拘束していたことは違法であるが、その状態が裁判官が刑訴法六一条の手続をする段階まで継続していたとしても、その違法は、裁判官が勾留の手続じたいとしては適法な手続を経たうえ、裁判所の審判のために必要であるとして、同日中にした勾留の裁判の効力に影響を及ぼさないというべきであるから、所論は前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。
よって、同法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨 裁判官 戸田 弘 裁判官 中村治朗)